ベトナムでの合弁事業(JV)は、規制対応や市場アクセスの面で有力な選択肢ですが、すべての合弁が永続するわけではありません。パートナー間の戦略の相違、経営方針の対立、業績の不振、あるいは当初の役割を終えたことによる発展的解消など、さまざまな理由で合弁関係の解消や撤退が必要となる局面があります。合弁の出口は、組成のとき以上に難しく、感情的な対立や法的な紛争に発展しやすい領域です。本稿では、ベトナムにおける合弁の解消・撤退の実務について、その類型から具体的な手続き、労務・税務・資産処理までを整理します。

合弁解消の背景と類型

合弁を解消する背景はさまざまです。第一に、パートナー間の対立です。経営方針、追加投資、利益配分などをめぐる意見の相違が解消できず、協業の継続が困難になるケースです。第二に、業績の不振です。事業が赤字に陥り、再生の見込みが立たない場合、合弁の継続自体が負担となります。第三に、戦略の変化です。一方または双方の親会社の経営戦略が変わり、合弁事業が戦略上の位置づけを失うケースです。第四に、発展的解消です。合弁が当初の目的を達成し、いずれかが単独で事業を引き継ぐべき段階に至るケースです。

これらの背景によって、望ましい出口の形は異なります。対立による解消では、いかに紛争を避けて分離するかが課題となります。発展的解消では、双方が納得する形で持分を移転することが焦点です。撤退の場合は、損失を最小化し、責任を適切に処理することが目標となります。出口の類型としては、一方が相手の持分を買い取る、一方が自らの持分を相手または第三者に売却する、合弁会社を解散・清算する、といった選択肢があり、状況に応じて最適な方法を選びます。

出口条項の重要性 ― 始める前の備え

合弁解消の実務で最も痛感するのは、「合弁契約に出口条項が定められていたか」の差です。組成時に出口を想定して契約を設計していれば、解消の局面でも拠り所があります。持分の買取価格の算定方法、先買権(ファースト・リフューザル)、共同売却権(タグ・アロング)、強制売却権(ドラッグ・アロング)、デッドロック発生時の解決手続きといった条項が定められていれば、感情的な対立を避け、ルールに基づいて秩序立った解消を進められます。

逆に、出口条項が曖昧なまま「信頼関係でやっていこう」と出発した合弁は、解消の局面で深刻な紛争に発展しがちです。持分の価格をめぐって折り合わず、相手が買取りにも売却にも応じず、事業が膠着したまま身動きが取れなくなる、といった事態に陥ります。本稿で繰り返し強調したいのは、「出口は始める前に設計すべき」という原則です。すでに出口条項のない合弁を抱えている場合は、関係が良好なうちに契約を見直し、出口のルールを補強しておくことが、将来のリスクへの備えとなります。

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持分譲渡による解消

最も一般的な合弁解消の方法は、持分譲渡です。一方が相手の持分を買い取って単独所有とするか、自らの持分を相手または第三者に売却して合弁から離脱します。この方法の利点は、合弁会社そのものは存続するため、許認可や契約関係、従業員の雇用を維持したまま、出資者の構成だけを変更できる点です。事業を継続したい当事者がいる場合に適した出口といえます。

持分譲渡の最大の論点は、譲渡価格の算定です。事業価値の評価をめぐって当事者間で見解が分かれることが多く、第三者の専門家による評価を活用したり、契約で定めた算定方式に従ったりして、客観性を確保します。ベトナムでは、持分譲渡に伴う手続きとして、社内承認、定款変更、当局への登録変更、そして譲渡益に対する課税の処理が必要となります。外国人投資家が関わる場合、外資規制への適合や、必要に応じた当局の承認も確認が求められます。これらの手続きには一定の時間を要するため、スケジュールに織り込んでおく必要があります。

デッドロックの打開

合弁解消の局面で最も厄介なのが、デッドロック(意思決定の膠着)です。特に50対50の合弁では、双方が譲らないと何も決められなくなり、事業が機能不全に陥ります。合弁契約にデッドロック解消条項があれば、それに従って打開を図ります。代表的な仕組みとして、一定期間の協議義務、経営トップ同士のエスカレーション協議、第三者(調停人)の関与、そして最終的な持分の買取りオプションがあります。

買取りオプションには、一方が価格を提示し相手が「売るか買うか」を選ぶ方式(ロシアンルーレット)や、双方が買取価格を入札する方式(テキサスシュートアウト)などがあります。これらは強制的に膠着を打開する仕組みですが、資金力の差が結果を左右しやすいため、自社にとって有利か慎重な検討が必要です。デッドロック条項がない場合は、当事者間の交渉や調停・仲裁を通じて解決を図ることになりますが、解決までに長い時間と労力を要することがあります。膠着を防ぐためにも、組成時の出口設計がいかに重要かが、ここでも問われます。

解散・清算による撤退

事業の継続が困難で、買い手も見つからない場合は、合弁会社の解散・清算という出口を選ぶことになります。解散・清算は、会社を消滅させる手続きであり、資産の換価、債務の弁済、残余財産の分配、従業員の処遇、各種登録の抹消など、多くの手続きを伴います。ベトナムでの会社清算は、税務当局の確認を含む手続きに相当の時間を要することが知られており、計画的な準備が欠かせません。

清算の局面では、資産の処分価値が帳簿価額を下回ることが多く、損失の確定をどう処理するかが論点となります。また、債務の弁済順位、税務上の清算手続き、過年度の税務リスクの精算なども慎重に対応する必要があります。従業員の解雇に伴う退職金や法定の補償、取引先との契約の終了処理も、適切に行わなければ後の紛争やレピュテーションの低下を招きます。解散・清算は「終わらせる」だけでも多大な労力を要するため、専門家の支援を得ながら、計画的かつ法令を遵守して進めることが重要です。

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労務・人事の処理

合弁解消や撤退に伴う労務処理は、最も慎重を要する領域の一つです。ベトナムの労働法は労働者保護の色彩が強く、人員削減や雇用契約の終了には法定の手続きと補償が求められます。事業の縮小や解散に伴う人員整理を行う場合、法定の予告期間、退職手当、失業手当の手続きなどを遵守しなければなりません。これを軽視すると、労働紛争や当局からの指摘を招き、撤退そのものが滞るリスクがあります。

また、労務処理は法的な側面だけでなく、従業員との信頼関係やレピュテーションにも関わります。誠実で丁寧な対応を欠くと、従業員の反発を招き、地域社会や取引先からの評価も損ないます。とりわけ、ベトナムでは従業員のネットワークやSNSを通じて評判が広がりやすいため、撤退の局面でこそ誠実な対応が問われます。持分譲渡によって事業が継続する場合は、雇用が維持されることを従業員に明確に伝え、不安を和らげることが、円滑な移行につながります。

税務・資産処理の論点

合弁解消・撤退には、税務上の論点が数多く伴います。持分譲渡の場合は譲渡益課税、解散・清算の場合は清算所得への課税や残余財産の分配に関する課税が生じ得ます。また、過年度の税務処理に潜在的なリスクが残っている場合、撤退の過程で当局の調査を受け、追徴が生じる可能性もあります。撤退は、過去の税務処理が精算される局面でもあるため、事前にリスクを洗い出し、必要な手当てをしておくことが望まれます。

資産処理については、合弁会社が保有する資産(設備、不動産の使用権、知的財産、在庫など)をどう扱うかが論点となります。持分譲渡であれば資産は会社に残りますが、解散・清算であれば資産を換価する必要があります。とりわけ土地使用権や許認可は、譲渡や承継に制約があることがあり、慎重な確認が求められます。日本の親会社に技術やブランドを返還する場合の取り扱いも、税務と権利保全の双方から検討すべき論点です。撤退は、これらの資産と税務を整理し、責任を清算する総合的な作業なのです。

紛争解決と仲裁の活用

合弁の解消が当事者間の協議でまとまらない場合、紛争解決の手続きに進むことになります。合弁契約に紛争解決条項が定められていれば、それに従って調停や仲裁、訴訟といった手続きを取ります。とりわけ、外国企業が関わる合弁では、中立性と執行可能性の観点から、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)をはじめとする中立的な仲裁機関を仲裁地・仲裁機関に指定しておく例が多く見られます。仲裁は、非公開で進められ、専門的な判断が期待できるなどの利点があります。

もっとも、紛争解決の手続きは、時間と費用を要し、当事者の関係を決定的に損ないます。可能な限り、紛争に至る前に、協議や調停を通じて円満な解決を図ることが望ましい姿です。紛争解決条項は、いわば「最後の安全弁」であり、その存在が当事者を協調的な解決へと向かわせる効果も持ちます。また、仲裁判断や和解の内容をベトナム国内で執行できるかという執行可能性の論点も、あらかじめ確認しておくべき重要な実務上の留意点です。出口をめぐる紛争は、避けられるなら避けるに越したことはありません。

日本企業への示唆とまとめ

ベトナムでの合弁解消・撤退は、組成のとき以上に難しく、感情的な対立や法的紛争に発展しやすい領域です。鍵は、何よりも組成時の出口設計にあります。出口条項を備えた合弁は、解消の局面でもルールに基づいて秩序立った分離が可能です。解消の方法は持分譲渡、デッドロックの打開、解散・清算と多様であり、状況に応じて損失を最小化する選択を行います。労務・税務・資産処理を法令に従って誠実に進めることが、紛争とレピュテーション低下を避ける要諦です。Solaraは、合弁の出口戦略の設計から、持分譲渡や清算の実務、労務・税務対応までを一貫して支援し、日本企業の円満な撤退と価値の保全を後押しします。