ベトナムで事業を成長させるには、適切な資金調達が欠かせません。設備投資、運転資金、M&Aの資金など、必要な局面でいかに資金を確保するかは、事業の機動力を左右します。しかし、ベトナムの銀行システムや与信環境、外貨規制には独自の特性があり、日本での感覚がそのまま通用しないことがあります。日本では当たり前に受けられる融資が、現地では信用履歴の不足から難しかったり、資金を国外に送ろうとすると規制の壁に直面したりします。これらの特性を理解せずに資金計画を立てると、いざというときに資金が確保できず、事業機会を逃すことになりかねません。本稿では、ベトナムの銀行システムの概観、貸出金利と与信の実情、外貨規制、そして本社からの資金供給を含めたファイナンスの選択肢を整理します。

ベトナムの銀行システムの概観

ベトナムの銀行システムは、中央銀行であるベトナム国家銀行(SBV)を頂点とし、国有商業銀行、株式制商業銀行、外資系銀行などで構成されます。国有商業銀行は規模が大きく、ローカル企業や大型プロジェクトへの融資で中心的な役割を担います。株式制商業銀行は、よりリテールや中小企業向けに機動的なサービスを提供します。外資系銀行は、外資企業の取引やトレードファイナンス、本国との連携で利用されることが多く、進出日系企業にとって馴染みやすい選択肢となります。

銀行選びは、進出企業にとって重要な実務判断です。日系を含む外資系銀行は、言語面のサポートや本国との連携、国際取引の利便性で優位がある一方、現地ローカル銀行は支店網や現地企業との取引、現地通貨建ての機動性で強みを持ちます。資金決済、給与振込、トレードファイナンス、借入といった用途に応じて、複数の銀行を使い分けることも実務的な対応です。口座開設には所定の書類が求められ、外資企業特有の確認手続きを要する場合があります。

貸出金利と与信環境の実情

ベトナムの貸出金利は、先進国に比べて高い水準にあるのが一般的です。インフレや資金需給、金融政策によって変動しますが、現地通貨(ドン)建ての借入金利は、日本での調達コストを大きく上回ることが多く見られます。これは資金調達コストとして事業の収益性に直接影響するため、現地での借入に過度に依存する資金計画は、金利負担が重くのしかかるリスクをはらみます。日本の低金利に慣れた感覚で資金計画を立てると、現地の金利水準に驚くことになります。借入による資金調達を前提とする事業計画では、この金利負担を織り込んだうえで、なお採算が成り立つかを慎重に検証する必要があります。

与信環境にも特性があります。設立間もない外資現地法人は、現地での信用履歴が乏しく、十分な担保や本社保証がなければ、希望する条件での借入が難しい場合があります。現地銀行は、担保(不動産など)や保証を重視する傾向があり、無担保での運転資金融資のハードルは高いことがあります。このため、進出初期は本社からの資金供給に頼り、事業が軌道に乗って現地での信用が蓄積されてから現地調達を拡大する、という段階的な資金戦略が現実的です。

現地通貨建て貸出金利水準の推移イメージ(概念図)。金融環境により変動。

▲ 現地通貨建て貸出金利水準の推移イメージ(概念図)。金融環境により変動。

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外貨規制と資金の出入り

ベトナムには外国為替管理の枠組みがあり、資金の国外への送金や外貨建て取引には一定の規制があります。原則として、ベトナム国内での取引は現地通貨(ドン)建てで行うこととされ、外貨建て取引が認められる場面は限定されます。配当の海外送金、ロイヤルティや技術指導料の支払い、借入の元利返済などの対外送金は、所定の要件と手続きを満たす必要があります。これらを誤ると、資金が国外に出せず滞留するリスクがあります。

進出企業にとって重要なのは、資金の「入口」と「出口」を計画段階で設計しておくことです。資本金として投じた資金、本社からの貸付(親子ローン)、現地で得た利益の還流(配当)は、それぞれ手続きと制約が異なります。特に親子ローンは、登録や報告の手続き、借入限度に関する規制があり、これを満たして初めて元利の返済送金が可能となります。資本金、親子ローン、配当という三つの資金フローを、規制を踏まえて設計することが、円滑な資金管理の前提です。

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本社からの資金供給という選択肢

現地借入のハードルや金利水準を考えると、進出初期の資金供給は本社からの拠出が中心となるのが一般的です。方法は大きく、出資(資本金の増額)と、貸付(親子ローン)の二つです。出資は返済義務がなく財務基盤を強化しますが、いったん払い込んだ資本の回収は配当や減資の手続きを要し、機動性に欠けます。親子ローンは返済を通じた資金回収が可能で柔軟性がありますが、外貨規制上の登録・報告手続きや借入限度の制約があります。

出資と貸付のバランスは、資金回収の柔軟性、税務(支払利息の取り扱いや過少資本の論点)、外貨規制を総合的に勘案して設計します。税務面では、親子ローンの金利が独立企業間価格(移転価格)の観点で適正かどうかも論点となります。資金供給の方法を場当たり的に決めると、後の資金回収や税務で不利になることがあります。進出計画の段階で、資本構成と資金供給の方針を税務・規制の専門家と設計しておくことが、長期的な資金効率を高めます。

資本市場とエクイティ調達の可能性

ベトナムには証券取引所があり、株式市場を通じた資金調達の道も開かれています。事業が一定の規模に成長すれば、株式の発行(増資)や、将来的には上場(IPO)による資金調達も選択肢となります。株式市場は近年、外国人投資家の関心も集めており、ベトナム企業のエクイティ・ファイナンスの環境は整いつつあります。ただし、上場には厳格な要件と継続的な開示義務が伴い、外国人投資家の保有比率にも制限がある場合があるため、エクイティ調達を見据えるなら早期から準備が必要です。

プライベートエクイティ(PE)やベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達も、成長企業にとって重要な選択肢です。ベトナムの成長性に注目した投資ファンドが活動しており、有望な事業には資本が集まります。これらのエクイティ調達は、借入と異なり返済義務がなく財務基盤を強化する一方、株主として経営に関与されることや、出口(エグジット)への対応が求められます。借入とエクイティ、本社拠出と外部調達という選択肢を、事業の成長段階とリスク許容度に応じて組み合わせることが、最適な資本構成につながります。

トレードファイナンスと資金繰り管理

輸出入を伴う事業では、トレードファイナンス(貿易金融)の活用が資金繰りを支えます。信用状(L/C)、輸出入金融、ファクタリングといった手法を用いることで、取引のリスクを管理しつつ、資金の効率を高められます。特に、VAT還付の遅延や、取引先からの入金サイトの長さによって運転資金が圧迫されやすい輸出型事業では、トレードファイナンスや短期借入を組み合わせた資金繰り管理が重要となります。取引のリスクを金融手段で管理することは、安心して事業を拡大するための土台です。

資金繰りの観点では、売掛金の回収管理、在庫の適正化、買掛金の支払条件、VAT還付のタイミングといった要素を総合的に管理する必要があります。現地では、取引先の信用リスクや、回収の遅延が日本より起こりやすい場面があり、与信管理と回収の仕組みを整えることが、黒字倒産を防ぐうえで重要です。資金繰り計画は、損益計画とは別に、月次・週次でのキャッシュフローの見通しとして管理することが、事業の安定運営を支えます。利益が出ていても資金が回らなければ事業は立ち行かないという現実を、常に意識する必要があります。

金融機関との関係構築

ベトナムでの資金調達を円滑にするには、金融機関との関係構築が重要です。現地での信用履歴が乏しい進出初期から、取引銀行と継続的な関係を築き、事業の実績を積み重ねることで、徐々に借入条件の改善や与信枠の拡大につながります。日常の決済、給与振込、トレードファイナンスといった取引を通じて関係を深め、事業の透明性を示すことが、いざ資金が必要になったときの調達力を高めます。金融機関との関係は、一朝一夕には築けない、時間をかけて育てる資産です。

銀行選びでは、自社のニーズに合った金融機関を選ぶことが重要です。本国との連携や国際取引を重視するなら外資系銀行、現地での機動的な対応や支店網を重視するならローカル銀行というように、用途に応じて使い分けます。複数の金融機関と関係を持つことで、調達の選択肢を広げ、一行に依存するリスクを避けることもできます。金融機関を単なる「お金を借りる先」ではなく、事業の成長を支えるパートナーとして関係を築く姿勢が、長期的な資金調達力の基盤となります。

金利環境と為替を踏まえた通貨選択

資金調達では、現地通貨(ドン)建てと外貨建てのどちらで借りるかという選択も重要です。ドン建ては金利が高めである一方、為替リスクを負いません。外貨建ては金利が相対的に低い場合がありますが、ドンが減価すれば返済負担が膨らむ為替リスクを伴います。外貨建て借入は、外貨収入のある輸出型企業であれば自然ヘッジが効きますが、収入がドン建ての内需型企業では、為替リスクがそのまま事業を直撃します。通貨の選択は、金利だけでなく、自社の収入の通貨構成と為替リスク許容度を踏まえて判断する必要があります。

さらに、外貨建ての借入には、外貨規制上の制約や手続きが伴う場合があり、利用できる場面が限られることもあります。金利の低さだけに着目して安易に外貨建てを選ぶと、為替変動と規制の両面で思わぬ負担を抱えることになりかねません。資金調達の通貨選択は、金利・為替・規制という三つの要素を総合的に勘案する、財務戦略の重要な判断事項です。自社の事業構造に照らして、リスクとコストのバランスが取れた通貨で資金を調達することが、安定した財務運営につながります。

日本企業への示唆とまとめ

ベトナムでの資金調達は、高めの貸出金利、設立初期の与信の難しさ、外貨規制という特性を踏まえた設計が必要です。進出初期は本社からの出資・貸付を中心とし、事業が軌道に乗ってから現地調達を拡大する段階的な戦略が現実的です。資本金・親子ローン・配当という資金フローを、外貨規制と税務を踏まえて設計し、輸出入事業ではトレードファイナンスと資金繰り管理を組み合わせることが、安定した事業運営の基盤となります。Solaraは、資本構成の設計、現地銀行との関係構築、外貨規制を踏まえた資金フローの設計まで、ベトナムでのファイナンスを支援します。